■写真の説明 = 貨物輸送機です。西暦2000年、南南東側から長さ4000mのRunway34(当時成田の滑走路は1本だけでした。)へ着陸進入中のフェデックスボーイングDC-10-30Fを、航空博物館の駐車場から、午前中撮影。機体の全長は55.35m(ボーイング747-400の78/100。)。装備しているエンジンは、ゼネラルエレクトリック General Electric GE CF6-50C、-50C2 等の中の一つのようです。この機はコクピットを先進的なMD-11のものに変更する等して、MD-10-30Fに生まれ変わったようですが、この写真が撮影された時に改修が行われていたかどうかは不明です。ニューマチックスターターやマグネシウム合金で覆われたアクセサリーギアボックス等の補機が収められているのでしょうか。下部の膨らみが、この機のエンジンを美しく見せます。フラップトラックフェアリングは他のボーイング機やエアバス機とは異なりフラップ後端から突き出ていません。
◆追記(水平尾翼について) = 私は子供の頃よく、本を切り抜いて接着剤で貼り合わせて作る紙飛行機を飛ばして遊んでいました。紙飛行機を力一杯水平に投げると宙返りし、速さがゆっくりになるとほぼ水平に飛びます。これはこの紙飛行機が、ゆっくりになると主翼の迎え角が水平に飛ぶのに最適になるような設定になっているからです。速さが速いうちは、主翼に働く揚力が強過ぎ、紙飛行機は急上昇し、斜め上方向に進み始めます。この時に水平尾翼が機首を進行方向の斜め上に向けるため、機体が受ける斜め上からの気流に対し主翼の迎え角が取られ続けます。進行方向の斜め上方向とほぼ直角の方向に働く主翼の揚力が、進行方向を更に上方向にし、機体は上昇の角度を急にします。水平尾翼が機首をその方向に向けます。この状態が連続し、紙飛行機は宙返りをします。
◇この紙飛行機の水平尾翼の後縁がもう僅かに下がった設定になっていると、機体が受ける気流に対する主翼の迎え角は減り、もっと速い速さで水平に飛びます。また水平尾翼の後縁がもう僅かに上がった設定になっていると、主翼の迎え角は増え、もっと遅い速さで水平に飛びます。紙飛行機は飛びながら水平尾翼の角度を変えることができませんが、舵面を動かせる飛行機は水平尾翼の後縁の向きを変える事により主翼の気流に対する迎え角を調節し揚力を一定に保つことができます。ジェット輸送 (旅客・貨物) 機の多くは、水平尾翼全体が根元から動くようになっていて、水平尾翼の取り付け角度を調節しながら飛べます。主翼の迎え角の調節は水平尾翼後ろの部分の昇降舵を操作しても行えますが、ヒンジの所で折れた形を維持するよりは水平尾翼全体を動かした方が空気抵抗を減らせるでしょうし、昇降舵の上下に動かせる範囲を均等に保つこともできます。このような理由から全体が動くようになっているのでしょう。
◇離陸した後、比較的低い高度を上昇する間の飛行機は、水平飛行に移り巡航する時に比べると低速でしょうから、飛行機が横から見て同じ方向に進み続けられるよう、この間は水平尾翼の後縁が上に向く方向に調整するのだと思います。やがて速さが速くなるにつれ水平尾翼後縁を徐々に下げて行き、そのまま巡航できるように思われますが、そうは行かないようです。写真のDC-10は、音速の8割強の速さ (マッハ0.82) で巡航するそうですが、この速さでは、機体の表面の空気の流れの遅い部分は音速より遅く、速い部分は音速を超えてしまいます。マッハ 0.8 から 1.2 辺り ( 書籍によっては、マッハ 0.75 から 1.25 ) でこのような状態になるそうです。この速度領域を 遷音速 transonic speed と言い、多くのジェット輸送機はこの速度領域で巡航します。このサイトの名前 “The Transonic Cruisers” は、その事実に因んで付けたものです。The は付けた方が恰好良いのではないかと思い付けました。さて、遷音速領域で飛行すると、主翼上面に発生した衝撃波の影響で機首が下がってしまう タック・アンダー という現象が起きるそうです。ですので巡航中は再び水平尾翼の後縁を上に向けなければなりません。
◇写真のDC-10は着陸間近です。水平尾翼の後縁が上に向いている様子が判りますが、その理由は速さが遅いからだけではないようです。主翼の後縁に有る強力なフラップが、重心位置より後ろで機体を押し上げる力により機首を下げようとするのに対抗し、後縁の上がった水平尾翼が、機首を上げようと尾翼の位置で下向きの力を発生させ、主翼の迎え角を維持しているのだと思われます。小を殺して大を得ているということですが、殺した小の分多く揚力を発生させるのに伴い抗力も増え、エンジン推力を増やす必要があるのでその分燃料を多く消費することになります。主翼と尾翼の他、機首に小さなカナード翼を持つ独創的なビジネス機 『 ピアッジョ アヴァンティ 』 という機種が在りますが、この機はカナードで機首を持ち上げる力を発生させることができるので、水平尾翼で下向きの力を発生させる必要がありません。(
AirLiners.net内のピアッジョ アヴァンティの写真へのリンク)
同じ様に大型のジェット輸送機の機首側面にカナードを装着すると、離着陸時の滑走距離が短くなり、かつ経済的なのではないでしょうか。カナードは後退翼より前進翼の方が良いかもしれません。これを機首側面のスリットから出したり胴体内に完全に収納したりできるようにし、駐機場ではカナードを完全に収納するようにすると、ボーディングブリッジを機体に付ける際に邪魔になりません。この形式が実用化された例として、コンコルドと同時期に開発されたロシアのSSTであるTu-144や、カナードの使用目的は異なりますが、グローブベーンを備えた初期のF14戦闘機が挙げられます。(
AirLiners.net内のTu-144の写真へのリンク)
■撮影に使用した機材 = カメラ:Canon EOS 5 , レンズ:Canon EF200mm F1.8L USM + PL-C52? , フィルム:FUJIFILM FUJICHROME Velvia , 一脚:Manfrotto クランプ2箇所のアルミ製一脚