■写真の説明 = 西暦2000年、南南東側から長さ4000mのRunway34(当時成田の滑走路は1本だけでした。)へ着陸進入中の全日空ボーイング747-400ジャンボジェット機を、人参畑内の道路から、午後に撮影。機体の全長は、70.66m。装備しているエンジンは、ゼネラルエレクトリック General Electric GE CF6-80C2B1F のようです。
◆追記(ウィングレットについて) = 装備している高性能エンジン以上に、ボーイング747-400の外観上の特徴となっているのが、翼端に装着された“ウィングレット”ではないでしょうか。その形状は至って正統的なものであり、それがボーイング社の堅実さを象徴しているように思います。ウィングレットには、翼端渦による誘導抗力を減らす働きが有ります。ウィングレットを垂直に立てるより単純にその分翼端を水平に伸ばした方が、より抗力が少なくなるそうですが、そうすると主翼の付け根を曲げようとする力が過大になるという問題が生じます。ウィングレットはその問題を生ずることなく抗力を減らせます。翼幅(翼の横方向の寸法)も増えません。機体を持ち上げるのが主翼で、安定を司るのが尾翼ですが、ウィングレットは抗力を減らす為に考え出された新たな翼と言えるでしょうか。
◇以前、月刊誌 イカロス出版 『月刊エアライン』 に掲載されていたのだと思いますが、旅客機のウィングレットの上端から渦が発生する様子を撮影した写真を見た覚えが有ります。そして後日、『月刊エアライン』 に、ウィングレットの主な働きの一つについて、『翼端渦とそれによる吹き下ろしの位置を上方と後方へ移動させ、主翼から遠ざける事であろう。』 と解説してある記事を読みました。私はこの説が当を得ていると思い、深い感銘を受けました。新鋭の最高性能クラスのグライダー及びモーターグライダーには、主翼の先端に近付くに従って上半角と後退角が大きくなるという特徴を持つ機種が多く見られますが、その事実も、この説を裏付けているのではないでしょうか。この説に接して、じっくり考えた結果辿り着いた、“各種のウィングレットがどのような仕組みで誘導抗力を低減するか” についての、私なりの認識を、以下に述べさせて頂こうと思います。
◇ウィングレットがどのような仕組みで抗力を減らすのかについての代表的な説を上記のものも含め次に四項目挙げます。
(1).推進…翼端渦による空気の流れを利用し機体を前に推す力を得る。(ウィングレットが翼端の後方に装着されている場合は、この効果が大きいのではないでしょうか。)
(2).拡散…翼端渦を拡散し弱める。
(3).翼端渦の上方への移動…翼端渦の発生位置を上方に上げ、主翼への吹き下ろしを弱くする。
(4).翼端渦の後方への移動…翼端渦の発生位置を後方に退け、主翼への吹き下ろしを弱くする。
更に私の思う仕組みを一項目挙げます。
(5).縦横比増加…ウィングレットを主翼の延長と考えると、ウィングレットを含めた主翼の縦横比が大きくなることにより 翼端(ウィングレットの端部)の翼弦寸法は相対的に小さくなり、また翼端(ウィングレットの端部)との距離が遠い部分が増え、翼端から発生する渦が弱まる。
◇細長い主翼は誘導効力が小さい事は良く知られています。翼端を横に伸ばし主翼を細長くすると、どのような仕組みで抗力が減少するのかについては、私は個人的に次の様に認識しています。上記(5)と同様ですが、主翼の縦横比が大きくなることにより 翼端の翼弦寸法が相対的に小さくなり、また翼端との距離が遠い部分が増え、翼端渦が弱まる他に、
(6).翼面積増加…主翼の翼面積が増えることにより、翼面荷重が減り、翼の上面と下面の圧力差が緩和され、翼端渦が弱まる。
という効果も有ると思います。
◇前方から見てほぼ垂直に立つウィングレットの装着にどのような効果が有るのかについては、私は次の様に認識しています。上記の(1)〜(4)の他に、(5)の縦横比増加の効果があると思います。翼端を横に伸ばした後に、その部分を上方にグニャリと垂直に折り曲げ、それをウィングレットと考えると、翼端を単に横に伸ばした時と同様に、(5)の効果が有ると思うのです。そして(6)の翼面積増加の効果は有りません。上方に折り曲げ垂直に立てた部分は、揚力で機体を持ち上げることはできず 、機体を持ち上げるのに有効な翼面積は増えないからです。ウィングレットを垂直に立てるよりその分を単純に水平に伸ばした方がより抗力が少なくなるのは、(6)の翼面積増加の分だけ効果が増すためだと思います。
◇AirbusA300-600、A310-300、A380 の 矢尻状のウィングチップフェンス は、(1)の推進又は(2)の拡散効果の有るものではないでしょうか。
◇ウィングレットではないのですが、エーゲ海横断に成功した MIT の人力飛行機 『 ダイダロス Daedalus 』 の、翼端に近付くに従い上方に反り、前方を切り落としたような斜めになった翼端を持つ主翼は、(3),(4)の翼端渦の発生位置の移動の効果の大きいものだと思います。
◇ボーイング Boeing737-600、-700、-800、-900 の とても背が高くスマートで美しい“ブレンデッド・ウィングレット”は(3),(4)の渦の発生位置の移動そして(5)の縦横比増加の三つの効果が非常に大きいものだと思われます。ウィングレットも含めた翼幅(翼の横方向の長さ)を大きくし、また端部を主翼から遠ざけるためにはウィングレットは長い方が望ましく、ウィングレット追加に伴う翼両面の圧力差の増加や誘導抗力以外の抗力の増加、そして重量や材料費の増加を抑えるためにはウィングレットの翼弦長(翼断面の前後の長さ)は小さい方が望ましいでしょう。このような理由からブレンデッド・ウィングレットは細長い形状になっていると思われます。AirbusA320にも同様のシャークレットが装着されることになるようです。
◇正統的な、Boeing747-400、AirbusA330とA340、そして個性的なBoeingMD-11のものはのものは(3),(4)の渦位置移動と(5)の縦横比増加の他、ごくわずかに(6)の翼面積増加そして(1)の推進の効果もあると思われます。
◇ボーイング Boeing777-300ER、777-200LR の レイクド・ウイングチップ ( 『後方に傾斜した翼端』 という意味でしょうか。) は上記の(4)の後方への渦発生位置移動及び(5)の縦横比増加と(6)の翼面積増加の三つの効果が非常に大きく、Boeing767-400ER、787-8、747-8、及び AirbusA350XWB、そして前述の高性能グライダー等もそうでしょうが、更に上方に傾いた物には(3)の上方への渦発生位置移動の効果も合わせた四つの効果が有ると思われます。
◆追記2 = 先日、Airliners.net で素晴らしい写真を見ました。着陸進入中のボーイング757が画面中央に小さめにほぼ正面から撮影された映像ですが、757のフラップの外側から竜巻のような翼端渦が後方に長く伸び、それに巻き込まれた低空の雲もしくは霧が、横100m以上×高さ数十メートル程の巨大な眼鏡のような形になっているという、非常に珍しく興味深い現象を捉えた、学術的にも価値の高いと思われるものでした (
Steve Morris 氏の Photo ID: 1008033 ) 。
下に掲載した写真は、2007年に別の空港で撮影した着陸時のANA737-500です。フラップの外側から渦が発生しているのがお判り頂けると思います。渦から翼端までの間には吹き上げが生じ、機体を前に推す力が働いているかもしれません。
:写真画像小
■撮影に使用した機材 = カメラ:Canon EOS-1V + PB-E2 , レンズ:Canon EF 70-200mm F2.8L USM , フィルム:FUJIFILM FUJICHROME Velvia , 一脚:SLIK ザ プロポッド + バル自由雲台 , 露出計:SEKONIC スタジオデラックスIII L-398A (写真画像小の撮影には、FUJIFILM FinePix F420 コンパクトデジタルカメラを使用。)